東京地方裁判所 昭和61年(ワ)9128号 判決 1987年4月24日
原告 中林義孝
被告 富士商品株式会社
右代表者代表取締役 立川政弘
被告 杉山春雄
右両名訴訟代理人弁護士兼被告 肥沼太郎
右三名訴訟代理人弁護士 三崎恒夫
主文
一、原告の請求を棄却する。
二、訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、当事者の求めた裁判
一、請求の趣旨
1. 被告らは、各自原告に対し、金一三〇万円及びこれに対する昭和六一年八月一四日(被告肥沼太郎については同年同月一五日、被告杉山春雄については、同年同月一七日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2. 訴訟費用は被告らの負担とする。
3. 右1につき仮執行宣言
二、請求の趣旨に対する被告らの答弁
主文同旨
第二、当事者の主張
一、請求原因
1. 被告富士商品株式会社(以下「被告会社」という。)は、原告に対する執行力ある債務名義に基づいて、昭和六一年六月五日、原告に対し、原告の使用する別紙物件目録記載の軽自動車(以下「本件軽自動車」という。)につき強制執行の申立て(以下「本件執行申立て」という。)を行った。
2. 右申立てに際し、被告会社は後述の不正な手段によって入手した本件軽自動車の納税証明書を添付することによって、あたかも右自動車が原告の所有に属するかのように見せかけて執行官を欺罔し、その結果、同執行官をして昭和六一年六月一一日東京都杉並区荻窪四丁目一四番二号の駐車場において右自動車に対する強制執行をさせ、同所からこれを持ち去らしめた。
3. 被告肥沼太郎(以下「被告肥沼」という。)は被告会社の代理人として本件執行申立てをした弁護士であるが、軽自動車の所有者を確認するためには、所属弁護士会を通じて軽自動車検査協会東京主管事務所に照会すれば、軽自動車登録原簿の写しの証明書を交付されることにより、容易に所有者を確認できるにもかかわらず、故意に右の手続を怠り、昭和六一年四月一八日、東京都目黒区役所において、原告から依頼された旨の虚偽の申告をして、係員から本件軽自動車の納税義務者が原告であることを記載した納税証明書の交付を受け、これを本件執行申立ての申立書に添付した。
4. 被告杉山春雄(以下「被告杉山」という。)は、被告肥沼の補助員であり、同人の代理人として前記執行の現場に立ち会ったものであるが、本件軽自動車が原告の所有ではなく、車内にあった車検証記載の株式会社スズキ自販東京の所有であることを知りながらこれを秘し、執行官を前記駐車場に案内し、使用者たる原告を所有者である旨強調して、本件軽自動車に対する差押を敢行させ、違法に持ち去らしめた。
5. 被告らの右不法行為により、原告は次の損害を被った。
(1) 本件自動車の時価相当額 金四〇万円
(2) 逸失利益一日一万円として
四〇日分 金四〇万円
(3) 慰謝料 金五〇万円
6. よって、原告は被告らに対し、不法行為に基づく損害賠償として各自右合計金一三〇万円及びこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和六一年八月一四日(被告肥沼については同年同月一五日、被告杉山については同年同月一七日)から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二、請求原因に対する認否
1. 請求原因1の事実は認める。
2. 同2、3の事実のうち、被告肥沼が被告会社の代理人として本件執行申立てをしたことは認めるが、その余は否認する。
3. 同4の事実のうち、被告杉山が被告肥沼の補助員であり、同人の代理人として本件軽自動車に対する強制執行の現場に立ち会ったことは認めるが、その余は否認する。
4. 同5の事実は否認する。
第三、証拠<省略>
理由
一、昭和六一年六月五日、被告会社は被告肥沼を代理人として原告に対し執行力ある債務名義に基づいて、原告使用中の本件軽自動車につき本件執行申立てをしたこと及び被告杉山は被告肥沼の補助員であり、同人の代理人として本件軽自動車に対する強制執行の現場に立ち会ったことは当事者間に争いがない。
二、<証拠>によれば、本件執行申立てに際し、本件軽自動車について東京都目黒区長発行の昭和六一年四月一八日付け軽自動車税納税書が添付され、右書面には納税者として原告の住所、氏名が記載されていたこと、右申立てに基づいて同年六月一一日東京都杉並区荻窪四丁目一四番二号の駐車場において執行官により本件軽自動車に対する差押えがなされるとともに、立会した申立代理人である被告杉山に対し、東京都杉並区上荻一丁目三番五号日産レンタカー荻窪営業所において本件軽自動車を保管すべき旨命じられたこと、同年七月本件軽自動車の所有者である株式会社スズキ自販東京は被告会社に対し、右強制執行の停止を求めるとともに第三者異議訴訟を提起し、昭和六二年二月二六日勝訴判決を得たことがそれぞれ認められる。
三、原告は、本件執行申立ては、被告会社において原告が本件軽自動車の所有者ではないことを知りながら違法な手段により被告肥沼が入手した前記軽自動車納税証明書を添付するなどしてなされた違法な申立てであり、また執行現場において被告杉山が執行官を欺罔して本件軽自動車に対する執行をさせたものであると主張するので、この点について判断する。
そもそも軽自動車に対する強制執行は、道路運送車両法第一三条第一項に規定する登録自動車の場合と異なり、動産執行によることとされているので、その執行を申し立てる場合には、申立人は当該軽自動車が相手方の所有に属することまで明らかにする必要はなく、相手方の占有下にあることを主張すれば足り、他方、執行官は右軽自動車が相手方の占有下にあると認められる限り、仮に、これにつき第三者の所有権留保を証する書面が提出されたとしても、これにより直ちに第三者の所有に属することが明らかな場合とはいえないので、右軽自動車に対する差押えを行うことができるものと解される。
これを本件についてみるに、<証拠>によれば、被告会社は、原告に対する債務名義である確定判決に表示された原告の住所や本件訴状記載の原告の住所について調査した結果、原告は右いずれにも居住しておらず、執行できなかったため、被告会社の従業員は原告の妻中林静江の住所である東京都杉並区南荻窪四丁目二〇番一六号に赴いたところ、同女の居宅の前に本件軽自動車が駐車していたので、そのナンバーをメモし、かつ、その後の調査により、右軽自動車は原告が通常、杉並区荻窪四丁目一四番二号シオンの家アース学生寮前の駐車場に駐車させていることを確認したこと、被告会社から本件執行申立ての依頼を受けた被告肥沼は本件軽自動車が動産執行の対象たる軽自動車として記録されているか否かを確認するため、同人の事務所の職員に調査させたところ、軽自動車検査協会では直ちには証明書の交付を受けられなかったので、これに代る方法として目黒区役所に対し、裁判用に使用する目的であることを告げて、同区長から前記本件軽自動車の納税証明書の交付を受けたこと、そこで被告肥沼は本件軽自動車は原告が占有、使用していることを改めて確認したので、目的物の所在場所(執行の場所)を前記駐車場として本件執行申立てを行ったこと、その結果、執行官は昭和六一年六月一一日右の場所に赴き、本件軽自動車の存在を確認したが、相手方である原告が立会しておらず、同人の勤務先及び同人の妻の前記住所地を訪ねても不在だったため、同執行官はやむなく本件自動車の旋錠を外して内部を調査し、本件軽自動車の自動車検査証や自賠責保険証明書を現認した上、なお、本件軽自動車は原告の占有下にあるものと認定して、これを差押えたこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
また、被告らにおいて、本件軽自動車が原告の所有ではないことを知りながら、故意に原告の占有を妨害する意図で本件執行申立てをしたことを認めるに足る証拠はない。
右認定によれば、本件執行申立て及びこれに基づく執行はいずれも適法であって、何ら違法とは認められない。
四、よって、その余の点を判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 奥山興悦)
<以下省略>